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人事労務研究室ブログ

vol.21「採用面談で家族構成や健康状態を聞くのって違法なの?」

2021.11.16

皆さんこんにちは。川原経営の薄井です。

先日、初めてのPCR検査を受検しました。発熱などの症状があったわけではなく、地方のお客様先へ約1年半ぶりに訪問するためでした。検査結果を知るまでは落ち着かない日々が続きました。陰性の結果が届いた時は、安心したのと同時に、久しぶりにお客様にお目にかかれる喜びを感じることができました。

 

さて、本ブログでは今回も、目まぐるしく変わる経営環境の中で、お客様から寄せられる人事・労務に関するご質問をQ&A方式で解説いたします。

 

≪本日の相談≫

採用面談で求職者に対して、家族構成や健康状態について質問をしたところ、「それを聞くのは違法ですよね?」と回答を拒否し、採用を辞退されてしまいました。こちらとしては働くイメージが湧いていたため、生活背景を把握したうえで配属先を決めようと思っていました。採用面談での質問で違法性を訴えられてしまいましたが、今後のために注意すべき点を教えてください。

≪回答≫

ご質問ありがとうございます。
今回は、採用面談時の注意点です。

 

意外と知られていませんが、採用面談にも守らなければならないルールがあります。
「採用するのは使用者の自由であるから、何を聞いてもいいでしょ?」と思われる経営者様もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。

 

採用選考にあたっては、以下の2点を押さえて実施する必要があります。
・応募者の基本的人権を尊重すること
・応募者の適性・能力に基づいて行うこと

 

職業差別に繋がらないよう、①本人に責任のない事項、②本来自由であるべき事項(思想信条にかかわること)を把握することは禁止されています。
今回ご質問いただいた、「家族構成や健康状態」に関することは、①本人に責任のない事項に該当します。

他にも、具体的にどのようなことを聞いてはいけないのか確認していきます。

 

①本人に責任のない事項
・本籍・出生地に関すること


「出身地はどこですか?」、「○○(苗字)って△△出身の人ですよね?」などと、本人の出生に関する質問をすることです。出生地は差別的部落など、社会的マイノリティーの方を不当に排除することになりかねないため、禁止されています。「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当します。


 

・家族に関すること


「配偶者はいますか?」、「家族構成を教えてください。」、「子どもは何人いますか?」等、家族構成を把握することは禁止されています。採用する側としては、特に子どもの年齢や人数は気になるところですが、聞いてはいけません。昨年、一般社団法人 日本規格協会が公表する履歴書からは、配偶者の有無を記入する欄が削除されたのはご存じの方も多いはずです。なお、こちらから聞かずとも、求職者側から「子どもが1歳と小さくて、時短勤務できる体制があるとありがたいのですが…」などと自由意思に基づき発言すること自体は問題ありません。


 

・住宅状況に関すること


「住所を見ると集合住宅のようですが…?」「住宅ローンを払っていますか?」等、住宅状況に関することも禁止されています。住宅状況に関すること、特に居住形態に関することは、古くから差別的な扱いをされるものとなっています。住宅状況に関する質問は禁止されていますが、最寄り駅からの距離やアクセス状況は通勤時間に関係するため、質問しても問題ないでしょう。


 

・生活環境・家庭環境に関すること


「パートナーと同棲していますか?」等、生活環境・家庭環境に関することも聞いてはいけません。生活環境によって、本人の能力が左右されることはあり得ませんから、そもそも聞く必要がありません。


 

②本来自由であるべき事項

・宗教・支持政党に関すること


「信仰する宗教はありますか?」「支持政党を教えてください」等、宗教・政治に関することは禁止です。ビジネスシーンにおける政治・宗教の話がタブーなのはご存じの通りですが、採用面談も例外ではありません。ちなみに、入職後の休憩中に政治活動を禁止することは、休憩の目的を損なわない限り問題ないとされています。支持する政党は自由ですが、それを職場に持ち込むことは禁止して問題ありません。


 

・人生観、生活信条/尊敬する人物/思想に関すること
・購読新聞・雑誌・愛読書に関すること


「愛読書を教えてください」「尊敬する歴史上の人物は?」等、人生観や生活信条に関する質問は禁止です。2021年の7月に、滋賀県教育委員会が、県内の高校生の就職試験において愛読書に関する質問が急増し、不適正質問があったと公表したケースもあります。人生観や生活信条は本人の自由であるべき事項であり能力になんら影響を及ぼすものではありません。


 

・労働組合に関する情報(加入状況や活動歴など)、学生運動など社会運動に関すること


「労働組合に加入していますか?」「社会運動への参加経験があれば教えてください」等、個人的な活動についても質問してはいけません。労働組合、社会運動での取り組みは基本的人権の範囲です。ちなみに、労働組合に加入している事実があり、その組合を脱退することを採用条件とすることを黄犬契約(おうけんけいやく)といい、労働組合法上禁止されています。


 

以上が、採用面談時に質問してはいけない内容です。

これらは、採用者側から“質問してはいけない”だけであって、求職者側から発言することは問題ありません。

しかし、子どもの年齢によっては勤務上制約が生じることがあり、事前に把握したい場合もあります。このような際は、相手に話してもらえるような雰囲気を作ることも一案です。例えば、「現在、当法人では育児休業を取得している職員が〇名いて、皆復職したいと考えてくれているようです」等と発言すれば、「実は、うちにも小さい子がいて…」と、関連情報を話してくれるかもしれません。

 

近年は、転職サイトにて求人側から何を聞かれたのか?を、簡単に確認することができます。(登録者のレビュー等)ここの法人は、聞いてはいけないことを簡単に聞くみたいだ、などとつまらないことでマイナス評価されることのないように、最低限の知識を身につけ面談に臨んでください。

 

参考資料:厚生労働省 「公正な採用選考の基本」
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/saiyo1.htm

 

 

◆ 薄井 和人 プロフィール ◆
人事コンサルティング部 課長。2014年入社。主な業務内容は病院・診療所・社会福祉法人の人事制度構築支援、病院機能評価コンサルティング、就業規則改訂支援、人事担当者のOJT業務など。各地の病院団体・社会福祉協議会から講演依頼がある。講演内容は人事・労務、労働関連法令の改正情報、服務規程(パワハラ・セクハラ)など。
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