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人事労務研究室ブログ

vol.20「育児や介護等の事情を理由に勤務に制限が生じる職員への対応方法」

2021.10.22

皆さんこんにちは。川原経営の薄井です。

2021年10月に、最低賃金が改定されました。昨年はコロナ下において据え置きになっていた最低賃金ですが、2年ぶりに更新されました。政府は、“毎年3%程度を目途に改定し、全国加重平均で1,000円”という目標を掲げています。現在の全国加重平均は930円ですので、当面このペースで最低賃金の改定が進むことが想定されます。各都道府県の最新の最低賃金は、以下よりご確認ください。

 

厚生労働省:令和3年度地域別最低賃金改定状況

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/

 

さて、本ブログでは今回も、目まぐるしく変わる経営環境の中で、お客様から寄せられる人事・労務に関するご質問をQ&A方式で解説いたします。

 

≪本日の相談≫

育児や介護等、家庭の事情を理由にシフト通りに勤務してくれない職員がいます。当人たちは「労働者の権利だから」「休みを取らせてもらえなければハラスメントですよね?」と権利ばかり主張するため、対応に困っています。適切な対応方法を教えてください。

 

≪回答≫

ご質問ありがとうございます。

今回は、育児や介護等の事情を理由に勤務に制限が生じる職員への対応方法についてご説明します。

 

近年、度重なる育児介護休業法等の改正により、職員にとってライフイベントと両立しながら仕事をしやすい環境が整いつつあります。また、法改正の内容以上に、“育児・介護最優先”という風潮が、全産業的に広がっているのも事実です。

そういった背景から、法人優位の対応を一方的に行うとハラスメントで訴えられるリスクもあるため、慎重かつ誠実に対応しなければなりません。

 

とはいえ、職員有利の風潮や職員の主張ばかりを優先するわけにはいきません。事業所にとっては事業を安定的に運営することを第一に考える必要があります。1人の職員の権利主張を受け入れれば、そのしわ寄せは必ず現場の負担となります。代わりに勤務しなければならない職員がいるかもしれませんし、看護師長等シフト表作成担当者がシフトを作り直すこともあるかもしれません。

 

職員の考えを尊重しつつ、現場の負担とならない対応方法をご紹介します。

 

1.育児介護等ライフイベントの始期と終期を把握する

育児介護等のライフイベントによる勤務制限は、職員の事情によりいつ始まりいつ終わるのか様々です。例えば多胎妊娠の場合は、産前休業期間が通常の6週から14週となり、介護休業は要介護状態にある家族(配偶者・父母(養父母を含む)等)1人につき、93日間を3分割して取得することができます。妊娠中の職員から母子健康カードを提示され、切迫早産のリスクがあるため早期の休業取得を希望すると言われれば、突然の対応を余儀なくされます。

 

事業所にとって、突然の休業や復職ほど負担のかかるものはないはずです。しかし、前もって各々の時期が明らかになっていれば、職員・事業所双方にとっての負担は軽減されます。そのためには、以下の2点を意識して対応する必要があります。

 

① 対象職員毎に、今後どのような勤務制限が生じる可能性があるか確認する
⇒新型コロナウイルスへの感染を防ぐことなどを目的に、妊娠中の職員が早期の休業取得を希望するケースが増えているため、余裕を持った人員配置を心がける

上記に、「妊娠中の職員から、母子健康カードを提示され、切迫早産のリスクがあるため早期の休業取得を希望すると言われれば、突然の対応を余儀なくされます。」と記載がありますが①では妊娠に関する勤務制限は触れられていません。早期の休業取得を希望され、突然の対応をようすることとなった際の対応は何かありますでしょうか。

 

② 休暇・休業中に、対象職員と定期的に連絡を取る
⇒ライフイベントは、休暇・休業中に状況が変化する可能性が高いため、休暇・休業中も定期的に連絡を取ることで状況の変化を確認しやすくする(職員によっては、休暇・休業中の連絡に抵抗を示す場合もあるため、連絡手段は要検討。つまり、状況に応じて、メール・電話・テレビ会議等を使い分ける)

休暇・休業中の職員に関わらず、職員と適度な距離感を保ち、コミュニケーションを取る習慣をつけることが重要です。定期的に話を聞く中で、職員から「実は母の体調が悪く…」「子どもが体調を崩しやすく…」と家庭の事情を話してくれることもあるはずです。事業所側に話を聞く体制があれば、職員も“病院に迷惑がかからないように休暇・休業を取得しよう”と考えるようになります。反対に、職員とのコミュニケーションが不十分な事業所の場合、“権利を尊重してくれる理解ある職場かどうか不安だから、とにかく権利を主張して早く休ませてもらおう”と、事前に相談することなく休暇・休業に入ってしまうことが多いです。

 

2.雇用形態ごとの業務内容や役割を明確にし、場合によっては雇用形態の転換を打診する

勤務制限が生じている(又は生じる可能性がある)職員は、自身の権利を主張する傾向があります。当然、法令上定められた制度や事業所独自の制度は職員に認められた権利として尊重しなければなりません。しかし、その権利を得るためには、職員1人ひとりが、労働者としての職責を果たす必要があります。①業務内容、②月の所定労働時間、③会議参加等、職員の職責は様々です。

 

職員が「介護休暇を取らせてください。これは権利です」と主張するように、事業所としても「今月の所定労働時間数が足りていません。このままでは欠勤処理します」と主張することはできます。しかしながら、ハラスメントにならないように伝え方には注意しなければなりません。

 

互いが権利を主張するばかりの職場にしないためにも、事業所として職員に求める職責を明確にする必要があります。基準を明確にすれば、正職員としての要件を満たせない職員に対し、一時的に時間給の非正規雇用へ転換することを打診することもできます。

 

職責の基準に関しては、近年の働き方改革の流れで、各事業所で同一労働同一賃金の整理が進んでいます。しかし、せっかく雇用形態ごとの職務内容や職務変更の範囲を明確にし、“均衡待遇” を制度上実現させたとしても、実際に職員がその区分に合った要件を満たしていなければ意味がありません。例えば、非正規職員が正職員に対し、“○○さんは休みばかりとっているのに正職員の賃金をもらっている”などといった不満を抱くことがないよう、雇用形態ごとの業務内容・役割を明確にし、要件を満たせない場合は勤務制限が生じづらい他の雇用形態へ転換するといった流れを作る必要があります。

 

3.必要に応じて人員補充する

対象職員の勤務制限の程度は様々で、長期の休業を余儀なくされるケースもあれば、一定期間、時短勤務した後、元の勤務形態に戻るケースもあります。先ほど述べた通り、ライフイベントの始期と終期を確認することと併せて、そのライフイベントによる勤務制限の程度を確認する必要があります。その程度に応じて、現場にどのような影響が生じるのか、所属部署の責任者に確認し、必要に応じて人員補充を検討する必要があります。人員を補充する方法は主に2通りです。

 

① 新たに職員を採用する
⇒勤務制限が生じる職員と同等の勤務が可能な職員を採用することで、人員を補充します。対象職員が、長期間の休業を余儀なくされるケースや復職の時期が読みづらいケースで有効です。直接採用が難しい場合は、派遣会社等を活用することも一案です。(但し、看護業務など派遣制限がある職種は不可)

 

② 非正規職員の勤務日数や勤務時間数を変更する
⇒既存の非正規職員の勤務日数や勤務時間数を変更することで、人員を補充します。週3日勤務を週4日に、4時間勤務を6時間勤務に変更する等です。対象職員が時短勤務するケースや休業と復職を繰り返すケース、復職の時期が読みやすいケースで有効です。なお、この場合は勤務時間等を変更する職員と再度雇用契約を締結することが求められます。また、扶養の範囲での勤務を希望する職員もいるため注意が必要です。

 

最もやってはいけないのは、正職員に残業させることで業務量をカバーすることです。一見、既存の正職員でカバーする方法が手っ取り早く感じるかもしれませんが、割増賃金は時間単価も高く、残業を抑制する時代において適した方法とは言い難いです。職員に負担をかけ離職に繋がれば、負のスパイラルにもなりかねません。

“現場に負担がかからないこと”を最優先に、無理のない対応方法を検討する必要があります。

 

医療・福祉の業界だからこそ、職員のライフイベントを尊重し、雇用を継続しようとする意識は大切です。しかし、一職員の要望を受け入れた結果、他の職員へしわ寄せがいってしまうことがないように、全体最適な人事管理を心がけましょう。

 

◆ 薄井 和人 プロフィール ◆
2014年入社。主な業務内容は病院・診療所・社会福祉法人の人事制度構築支援、病院機能評価コンサルティング、就業規則改訂支援、人事担当者のOJT業務など。各地の病院団体・社会福祉協議会から講演依頼がある。講演内容は人事・労務、労働関連法令の改正情報、服務規程(パワハラ・セクハラ)など。
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