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人事労務研究室ブログ

vol.16「試用期間終了後の解雇って違法?」

2021.05.13

皆さんこんにちは。川原経営の薄井です。

2021年に入り、2度目の緊急事態宣言が発令され、今年も“我慢のゴールデンウィーク”を過ごすことになりました。家族との時間を楽しむ一方で、運動不足からの体重増に頭を抱えています。

 

さて、本ブログでは今回も、目まぐるしく変わる経営環境の中で、お客様から寄せられる人事・労務に関するご質問をQ&A方式で解説いたします。

 

≪本日の相談≫

4月に職員を採用しましたが、能力的に当法人の業務を行うことができず、試用期間終了後に、解雇しようと思っています。もし解雇する場合は、どのような点に注意するべきか教えてほしいです。

 

≪回答≫

ご質問ありがとうございます。今回は試用期間終了後の解雇についてです。

 

多くの法人では新たに職員を採用する際、一定の試用期間(約3~6か月程度)を設定し、試用期間終了後に本採用する手続きを取っています。

 

試用期間終了後に本採用されるケースがほとんどですが、対象職員に何らかの落ち度があり、本採用が難しい場合は試用期間を延長するまたは解雇するケースもあると思います。

 

試用期間終了後または試用期間中に解雇することは違法ではありませんが、注意しなければならないポイントがいくつかあります。

 

まず、試用期間の法的な位置づけから確認したいと思います。

試用期間は、「解雇権留保付雇用契約」と位置づけられており、名称の通り “法人側にとって解雇権が留保された状態で雇用契約を締結している”という考え方です。

本採用と大きく異なるのは、“解雇権を留保している状態か否か”という点で、法人にとってはより広い範囲の解雇の自由が認められた状態ということです。

本採用後と比較すると解雇権を行使するハードルが低いことが分かりますが、法人から一方的に契約を解除するという点に変わりはありません。

法人側が判断した解雇が有効か否かを判断するポイントは以下の2点です。
① 客観的に合理的な理由があること(客観的合理性)
② 社会通念上相当であること(社会的相当性)

 

極めて曖昧な表現ですが、最高裁判決や当社事例をもとに、解雇が有効か否かの判断基準をいくつかご紹介したいと思います。

ケース1:職務経歴書の内容や学歴、保有資格を詐称していた

応募時に提出した履歴書や職務経歴書の内容、保有資格などに嘘があった場合は経歴詐称となります。保有資格や前職での経験は、採否を決定する上で重要な要素の一つです。本来保有していない資格を記載していた、前医療機関で経験していない業務を経験したことにしていたなどの事実がある場合は、解雇は有効になり得ます。一方で、勤務期間を数か月誤って記載していた、本来業務とは関係ない認定資格の記載ミスがあったなどは解雇するに有効な状態とは言えないでしょう。

 

ケース2:期待していた能力がなく、業務に支障をきたしている

職員を採用する際、一定の責任(役付き採用)や業務内容(採用後、即夜勤を行うことができる等)を前提に募集するケースがあります。この様な場合、前職での経験や面談時の応対で、責任や業務への対応の可否を判断することになります。法人が求める業務内容が明確になっているという前提(上記の役付き採用や夜勤)で、その業務内容を行うことができない場合は、解雇は有効になり得ます。しかし、一般企業とは異なり、売上等の定量的な判断材料がないため、業務内容を担うことができているか否か判断することが難しいケースもあり、法人はできていないと思っていても、本人ができていると思い込んでいるケースも多々あります。この様なケースで、解雇をする場合は、試用期間終了時に突然解雇を伝えるのではなく、試用期間中に、求める能力に到達していないことを伝え、このままだと本採用できない旨を明確に伝える必要があります。このようなフィードバックは、OJTの範疇ではなく、面談の場を設定して記録に残すことも重要です。指導したが改善されなかったため解雇を通達した場合と、試用期間終了後に突然解雇を通達した場合とでは、前者の方がトラブルになるリスクを抑えることができ、解雇の有効性も担保することができます。

 

ケース3:遅刻・欠勤が多い

正当な理由がない遅刻や欠勤を繰り返している場合は、解雇の有効性が認められる場合があります。ただし、遅刻・欠勤に対して何ら指導をしていない場合で、突然解雇を通達すると不当解雇になる恐れがあります。ケース2同様、法人として指導をしたにもかかわらず、改善されない場合のみ、解雇が有効になると言えるでしょう。

 

ケース4:傷病により出勤できない又は復職後も通常業務を行うことができない

業務外の傷病が原因で、出勤できない又は後遺症等が原因で通常業務を行うことができない場合は、慎重に判断する必要があります。当然、求める業務内容を行うことができず、法人経営や施設運営に影響を及ぼす場合は、解雇を検討する必要があります。ただし、職種転換等を行い、継続雇用できるよう検討するなど、法人として最善を尽くしたか否かが判断ポイントになります。休職期間中に試用期間が終了し、復職の見込みがある場合は、その時点で解雇するのではなく、試用期間を延長することも一案です。(業務上の傷病時は、通常の解雇制限(休職期間+30日間)が適用されます。)

 

通常の解雇と比較して、試用期間中の解雇はより広い範囲で認められていますが、通常の解雇同様に、30日前の解雇予告が必要なことも忘れてはいけません。

もし、試用期間中に解雇することが決定した場合は、30日前に通達する、また、解雇予告手当を支給する等の対応が求められます。(試用期間中で、採用後14日以内の場合は解雇予告の例外(労働基準法21条)が適用されます。)

 

試用期間は、新しく採用した職員が、法人が求める人物像なのか、求める能力を備えているのか等を判断する重要な期間です。

「人手不足だから取り敢えず本採用しよう」、「〇〇さんは病院での勤務期間が長いベテランだから大丈夫だよね」と軽率に判断するのではなく、限られた期間でしっかりと見極める体制を構築することが必要です。

 

◆ 薄井 和人 プロフィール ◆
人事コンサルティング部 課長。2014年入社。主な業務内容は病院・診療所・社会福祉法人の人事制度構築支援、病院機能評価コンサルティング、就業規則改訂支援、人事担当者のOJT業務など。各地の病院団体・社会福祉協議会から講演依頼がある。講演内容は人事・労務、労働関連法令の改正情報、服務規程(パワハラ・セクハラ)など。
© Kawahara Business Management Group.