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人事労務研究室ブログ

vol.13「36協定の押印は不要になるの?」

2021.02.10

皆さんこんにちは。川原経営の薄井です。

先日、2020年の平均有効求人倍率が1.18倍と発表されました。2019年の1.60倍から0.42ポイントの下落で、これは1975年のオイルショック以来45年ぶりの下落幅です。一方で、看護師や保健師、助産師などの平均有効求人倍率は2.11倍、介護職員など介護サービスの職種では3.99倍と依然として人手不足が続いています。

 

さて、本ブログでは今回も、目まぐるしく変わる経営環境の中で、お客様から寄せられる人事・労務に関するご質問をQ&A方式で解説いたします。

 

≪本日の相談≫

行政手続きにおける押印廃止の流れが促進されていると聞きます。36協定届など各種労使協定届についても押印は不要になるのでしょうか?

 

≪回答≫

2021年4月1日より、36協定届における押印・署名は不要になります。2020年9月より菅政権が発足し、様々な分野で「脱ハンコ」が促進されています。例えば生活に関係する部分では、住民票の写しの交付請求、年末調整、自動車の継続検査(車検)などが挙げられます。民間から行政機関への申請などで押印が必要な約15,000種類の手続きのうち、実印が必要な届出書類など83種類を除いて押印が廃止されます。

 

生産性の向上や経費の削減を目的としており、36協定届の提出など労働関係の行政手続きも該当します。今回は、36協定の各種届出書類の押印がどの様に変更になるのかを解説します。

 

36協定など各種労使協定届を労働基準監督署へ届け出る場合、押印には複数の意味があり、2021年4月1日以前は、以下の押印が必要でした。

①労働者と使用者間で締結した「協定書」として成立させるための押印

②事業所が労働基準監督署へ届け出る「協定届」として成立させるための押印

 

今回の労働基準法等に係る省令改正では②の「協定届」の押印が不要になりますが①の「協定書」としての押印は引き続き必要です。なお、実務上では、②の「協定届」は①の「協定書」を兼ねることもあります。②の「協定届」に①の「協定書」の役割を持たせる場合は、2021年4月以降も引き続き、署名+押印をした上で手続きをする必要があります。

使用者の押印を求める届出書類の一覧はこちらをご確認下さい。
⇒出典:厚生労働省 通達「労働基準法施行規則等の一部を改正する省令の公布等について」(基発1222第4号)

全ての届出書類が対象です。

また、こうした書面の押印見直しの趣旨を踏まえ、電子申請における電子署名の添付も不要となります。

押印が不要となる一方で、過半数代表者などを記載する必要がある届出書類については、適格な協定当事者であることを確認するために【チェックボックス】が設けられました。新たに設けるチェックボックスにチェックがない場合は、形式上の要件を備えていないものとして無効となります。

 

例:36協定の新様式(案)

出典:第164回労働政策審議会労働条件分科会参考(資料) 参考資料No.2 時間外労働・休日労働に関する協定届(改正案)

 

チェックボックスが新設された背景には、各事業所における過半数代表者などの選出方法が形骸化している現状があります。親睦会の代表者が自動的に決まる、使用者から指名されるケースなどがありますが、この様な方法で選出された場合は適格な協定当事者には該当しません。使用者などの意思に関わらず、投票や挙手など民主的な手続きにより選出する必要があります。

 

今回の押印不要となる新様式については、令和3年4月1日から適用されます。現在の協定届が3月31日以前に期間満了する場合、新様式で届け出ることも認められますが、その場合は押印又は署名が求められます。

 

※施行日以降に旧様式で届出があった場合は、①旧様式に直接チェックボックスの記載が追記されている、又は②チェックボックスの記載がなされた別紙を添付する必要があります。

出典:富山労働局:「旧様式及び新様式での届出にあたっての注意事項」を加工して作成

 

押印が減ることで業務そのものは効率化されます。しかし同時に、法人内での過半数代表者などの選出から届出書類の法人内稟議、労働基準監督署への届出までの業務が形骸化していないか、法人のガバナンス体制を見直すことも必要です。

 

◆ 薄井 和人 プロフィール ◆
人事コンサルティング部 課長。2014年入社。主な業務内容は病院・診療所・社会福祉法人の人事制度構築支援、病院機能評価コンサルティング、就業規則改訂支援、人事担当者のOJT業務など。各地の病院団体・社会福祉協議会から講演依頼がある。講演内容は人事・労務、労働関連法令の改正情報、服務規程(パワハラ・セクハラ)など。
© Kawahara Business Management Group.